元過労死ライン越え教師 Yb の日記

元過労死ライン越え教師が教育などについての考えを綴ります

○教育現場の現状は? Part 9 先生の仕事って?⑥ ~放課後~

○教育現場の現状は? Part 9 先生の仕事って?⑥ ~放課後~

 

 先生は児童が帰った後、どんな仕事をしているのでしょうか。これは、児童自身も保護者も気になるかもしれません。しかし、ここの説明はとても難しいです。表現がよろしくないかもしれませんが、児童の在校時間にできなかったことをしているというのが正しいかもしれません。教員の仕事は多岐に渡ります。授業準備からテストの丸付け、保護者対応や打ち合わせ、研修、そういった想像のつきやすいものから、会計や行事の計画書作り、特別教室の管理や校内の危険箇所や修繕の必要な箇所の確認、戸締りや警備の設定など本当に細かい雑用まで全てです。理科主任なら理科準備室の整理や体育主任ならプール管理などもここに含まれます。プールの水が出しっぱなしだったり、抜けてしまったり、そう言ったもので教員に賠償を迫る自治体があるというニュースが話題になったことがありますが、そういった仕事も割り振られているのが実態です。こう言った仕事を児童がいる時間だけで終わらせるのは難しいです。特に成績付けなど児童に見られると困るものや保護者に対してや教育委員会に提出する書類、指導案など深く考える必要がある資料作成などについても児童がいるところで作成するのが困難なものもあります。それを片付けるすごく万能な時間が放課後になります。

 しかし、この放課後は厄介な点がいくつもあります。その数は数え切れないかもしれませんが、ここではざっと七つの問題点に触れていこうと思います。

 一つ目は、時間がとても短いということです。児童は授業が終わったら勝手に帰ってくれるわけではありません。帰りの会や下校指導などは教員が関わらなければならないものです。それを終えてから仕事にかかるとなると、大体五時間授業の時であれば、午後三時から、六時間授業とならば四時からが放課後の仕事時間となると思います。定時は私の場合四時四十分ということが多いので、五時間目授業の時なら一時間四十分間、六時間授業なら四十分間が放課後の仕事時間となります。しかしながら一見五時間授業の方がゆとりがあるように見えてそうでない場合があります。共通認識として「五時間授業の日の放課後は時間があるよね」となってしまうので、職員会議や研修、はたまた何かの仕事がそこに割り当てられており、それが終わるのがよくて定時ギリギリ、悪いと定時を超えてしまう場合もあり、意外にも五時間授業の日の方が放課後の時間がないなんてことにもなります。

 二つ目は、行事の準備に駆り出されることです。先ほども言ったように放課後はほとんどの教員が共通して時間があるという認識があります。特に五時間授業の時は顕著に仕事が割り当てられているということもあります。そう言った認識があるので、行事の準備などもこの時間に割り当てられていることが多いです。例えば、運動会のテント建てや線引き、新体力テストのソフトボール投げのための線引き、お祭りなどの道具の用意など学校の行事の用意の中で教員が行わなければならないことのほとんどがこの時間に行われると言ってもいいかもしれません。物によっては、「それ児童と一緒にできたよね?」や「それ児童に手伝ってもらった方がよかったんじゃない?」と言った内容のものさえもこの時間の教員だけで行うこともあります。

 三つ目は、みんな空いている時間だと思っていることです。先程から何度も登場していますが、教員も保護者も放課後という時間は教員が固定の仕事がない時間だと認識している場合が多いです。それによって職員会議や行事の準備、そして何かあるとこの時間に同僚や上司は仕事を設定してくることがあります。また、保護者も同様です。「放課後ちょっとよろしいでしょうか。」といった連絡帳でのやりとりがあったり、放課後に電話をかけてくる保護者も少なくありません。確かに、保護者にとっても一番連絡しやすい時間帯であることは確かなので、そこは決して保護者の方が悪いわけではなく、致し方ないことですし、むしろこの時間以外に電話をかけてこられても教員も困ってしまう場合が多いので、よく考えていただいて逆にありがたいことでもあります。しかし、保護者や教員に限らず、どんな人もこの時間は空いていると認識しているとそこにどうしても仕事が集まりがちになってしまうのです。

 四つ目は、疲れているということです。人間は機械と違い疲れといった感覚があります。ですから、いつでも同じ時間があれば同じようなパフォーマンスで仕事に向き合えるわけではありません。放課後はここまで説明してきたような多くの業務をこなし、無事児童を帰宅させることができた後の時間です。その時間のパフォーマンスと朝起きて少ししてからのパフォーマンスに違いがあるかどうかと言えばもちろん違います。つまり、この時間は多くの細かい作業や頭を使う作業を行うことができますが、その時にはもうすでに疲労が多く溜まっており、どんな業務であろうと万全の体制ではないということです。時間も多くかかるでしょうし、頭も働いていないタイミングなのです。

 五つ目は、急な保護者対応や翌日のための児童指導があると放課後全てを使っても終わらないことです。長い間この職に就いていれば、自分に非があるにせよないにせよ、急な保護者対応や児童指導が発生するものです。分かりやすいもので言えば、友達同士のトラブルで保護者からお話があったり、児童のいじめについて翌日どう対応するかといったことがありますし、場合によっては児童相談所案件のものでケース会議ということだってあります。正直学校外の問題でしょ?と思うような内容でも、それが学校生活に関わってきてしまったり、児童の命に関わる問題であれば動かないわけにはいきません。そういったものも児童が在校している時には話し合いは難しかったりします。そういった話し合いは決まって長い物ですから、そういったものであると放課後はないと思った方がいいし、むしろ定時どころの騒ぎではないほど遅くまで話し合いが行われることも珍しくありません。

 六つ目は、若い教員は手伝いをさせられることです。私はこの業界に入った当初先輩からこのような話をいただきました。

「ベテランの先生方は多くの仕事をこなすことができる。でも、若手の先生方はそれに比べて貢献できることは少ない。だから、少しでもベテランの先生のお手伝いをして若手も力になるべきである。」この考え方に私は一理あると思っています。多くの先生方ができること、得意なことを率先して行うことでより現場が回りやすくなる。例えば、若手はベテランのような立ち回りをすることは難しいですし、少ない時間で多くの仕事をこなすことは特に初任などにおいてはまず無理だと思います。だからこそ、そこはベテランの力に頼る。しかし、ベテランは体力的にも衰えてきていたりしますから体力仕事は難しい時があるかもしれません。そういった面で若手の方が体力や力がある人も多いでしょうからそこは率先して動く。もちろん、例外もあるでしょうが、ある程度わかる理論だなとは思います。しかし、これはやる本人の、ベテランならベテランが若手の分も頑張ろうとか、若手ならベテランの先生の力になって頑張ろうとか、やる本人の気持ちや考え方の指標なのではないかなと思います。これが手伝ってもらう側の考えになると危険です。若手が難しいことは私たちはできないからベテランがやれよとか、力仕事は若手がやれよという考えでやってもらっていては空気として悪いものがあります。よくいう『お客様は神様』というのは店員サイドがお客さんを丁寧に扱うという気持ちの問題であり、これを客側が要求するのはおかしいという問題と同じだと思います。しかし、私はこの業界でも同じ問題が発生していると思います。ベテランが若手にただただ雑用を押し付けたり、その雑用時にいなかった若手を「私の若い頃は」といった枕詞を使った上で悪口の対象とする姿が蔓延しているように感じます。

 七つ目は、職員室での雑談会が行われると仕事が捗らないということです。確かに教員同士の情報交換は必要です。「〇〇くんが怪我をしていたけど担任が知らなかった」や「△△さんがこんなことをしていた」と言った情報が児童指導の面や児童理解の面などで大きく有用になることもありますし、保護者対応の時に他の先生は知っていたけど、担任が知らなかったなどといったことで大きな問題にもなりかねません。また、普段からコミュニケーションをとっておくことで咄嗟の時に動けることもあります。純粋にある程度の関係になっておくことで助け合おうという感情が生まれてくるのも事実ですし、仕事をする上で得意不得意などが分かり、円滑に業務を行えるようになることもあるでしょう。しかし、それにしてもです。その時間に多くの時間がとられていては問題です。先輩からの話をPCをカタカタやりながら聞く態度も気に食わないという先輩もいらっしゃるでしょうし、ある程度仕事の手を止めたり、その時間にしたかった仕事ができなくなることも想定されます。特に時間が遅くなってくるとみんな疲れてきて手を休めたくなり、よくわからない雑談会によって時間がとられてしまうということもあります。職員室内で全くコミュニケーションを取らないのも問題に繋がりますが、とりすぎて時間がなくなるのも大きな問題なのです。

 ここでは、放課後の厄介な点として七つ紹介しましたが、正直これだけではないと思います。しかし、全てを挙げていると途方もなくなってしまうので、今回はここで止めたいと思います。つまり、何を言いたいかと言えば、大きく二つです。一つ目は放課後は万能ではないということ。二つ目は、放課後に長く職員室で過ごしたり、在校時間が長かったりすると仕事が進むのではなく、むしろやらなかったはずの仕事が増えているなんてことも起きかねないということです。正直厄介以外の何者でもありません。

 重要なことは、放課後の時間が短ければ短いほど仕事は少なくて済むのです。定時退勤すると、さらに定時退勤しやすくなるということです。

 こう(2023.)は『結局、定時退勤が子どもたちのためになる』の中で

”「定時で帰ると決め、定時が来たらとりあえず帰る」”

”実は、仕事なんて、「やろうと思えばどこまでもできてしまい、正確な終わりなんてやってこない」というのが実態”

と示しており、これは定時で帰る。つまりは、放課後に長時間残ることが更なる長時間労働につながることを示しています。

 

 このように教員の放課後は短くまとめることが難しいほどにやることや行う内容などが広範囲にあったり、複雑な事情が絡んでいたりする厄介な時間でもあります。その反面、この時間にしかできないこと、この時間を有効活用することで自由度の高い業務を行うことが可能なことも事実です。

 ちなみにここでは書くつもりはありませんが、教員によっては、休日も放課後と同じような仕事を行なっている人もいます。仕事が終わらないからやその時間じゃないとできないなんてこともあるかもしれません。しかし、この章で教員の方も教員でない方も教員がどういった仕事をしているのかを理解することができたのではないでしょうか。

 

参考文献 こう(2023.),結局、定時退勤が子どもたちのためになる,明治図書.